井上尚弥選手がラスベガスのリングにメインイベンターとして登場し、9,000人近くの観客が集まる中でダウン応酬の見応え十分なパフォーマンスを演じました。
異国のリングで日本人ボクサーがメインの興行ながら配信からも会場の盛り上がりは大いに伝わってきました。
大橋会長によると体感としては日本のリング以上の歓声だったとのこと。
リングサイドは日本円で80万円、50万円もするチケットが完売です。
10数年前、テレビがまだ圧倒的主力のメディアだった頃、亀田興毅選手がお茶の間の注目を集め、高い視聴率を叩き出していました。
あの時代、ボクシングファン以外も亀田興毅の名を知らない人はいないくらいに話題の人でした。
が、仮に当時亀田興毅選手がラスベガスのリングに上がっても閑古鳥が鳴くリングで試合をすることになっていたでしょう。
- かつては日本人向けのテレビコンテンツとして視聴率を集めることが重視され、
- 今はSNSや配信メディアを通じて国内に止まらず世界中のボクシングファンとつながるグローバルな存在へ、
ボクサーの売り方も時代と共に変化してきました。
日本ボクシング界の象徴的な存在として一時代を築いた2人、井上尚弥と亀田興毅。
彼らは単なる「強いボクサー」ではなく、それぞれの時代とメディア環境に合ったプロモーションでスターへの階段を昇りました。
この記事では両者の違いを「メディアの構造」「求められた資質」「世界との関係性」という視点から掘り下げてみます。
メディア構造の違い:「マスメディア」VS「分散型メディア」
亀田興毅氏は2000年代〜2010年代初頭にヒールのカリスマとして注目を集めました。
当時は電車の中で高校生が「亀田興毅がマジでカッコいい。」といった話題をしていました(これ本当の話)。

嫌われ者だった話ばかりが強調されますが、当時は支持する声も結構ありました。
亀田興毅氏が活躍したのは、テレビがまだ絶対的な影響力を持っていた時代。
- TBSでのゴールデンタイム中継
- 対戦相手への過激な挑発パフォーマンス
- 親父と三兄弟で世界を目指すという漫画的な設定
これらによって”ボクシングファン以外にも分かりやすくお茶の間に届けるコンテンツ”
としてメディアの力で世に送り出されたヒールボクサーが亀田興毅(亀田三兄弟)という存在でした。
試合の前後もワイドショーやニュース番組で話題になり、ボクシングに興味がない層にも届く存在になりました。
SNSでもネガティブな投稿には一気に人が群がりますが、ヒール路線で亀田家はあっという間に燃え盛り、一躍時の人となりました。

その炎で視聴率を集め大金を稼いだものの、最終的には燃え盛った炎をコントロール出来なくなり、不運な形で興毅、大毅の2兄弟はそのまま日本のリングから去ることになりました。
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一方、井上尚弥選手が活躍する現代は、テレビの視聴率は下がり、SNSやYouTube、配信が主戦場になっています。
U-NEXT,プライムビデオ,ABEMA,Leminoなどの配信メディアを通じて、「見たい人が見に行く」スタイルが昨今の主流。
井上尚弥選手の場合、圧倒的な実績と試合内容そのものがSNSで拡散され、「世界が認める選手」として認知されていきました。
加えて井上尚弥選手は積極的にSNSを使うわけではありませんが、ここぞというというところで絶妙な投稿をしてファンの心に火をつけるのが上手い。
地道に実績を積み上げていくこの方法は日本人、そして世界のボクシングファンに認知されるまでには時間を要する歩みですが、世界的に認知されれば稼げる額も桁違いです。
井上尚弥選手は現在、過去の日本人ボクサーが束になっても敵わないような大金を稼ぐスーパースターとなっています。
- 亀田興毅氏はマスメディアによって“見せられる”時代に適応したスター
- 井上尚弥選手は様々な配信媒体から“選ばれる”時代に生まれたスター
少なくともマスメディアが市場を作ることが困難になった現代においては、亀田流の手法では以前のような話題性を生み出すことは難しいと言えます。
また、今後は海外市場を意識したプロモーションをキャリアの早い段階から目指していくことがより一層重視されていくでしょう。
求められた資質の違い:「話題性」vs「競技力」
亀田三兄弟には、一定の実力はもちろん、常に分かりやすくボクシングファン以外も反応するような話題を提供する能力が必要でした。
挑発的な言動、兄弟や父との家族ドラマといったメディア映えするキャラクター性。
これらが「見る理由」となり、プロレス的?な構造の中で評価される存在でした。
お茶の間の注目を集めるためにバラエティ番組への出演も欠かせません。
一方、井上尚弥選手の場合は、とにかく実力がすべて。
多くを語らずとも、試合内容と築き上げてきた実績だけで世界の評価を集めてきました。

圧倒的なパフォーマンスと高いKO率は、あらゆる言語・文化を超えてファンに届きます。
井上尚弥選手はまさに“スポーツとしてのボクシング”の象徴的な存在として世界的に知られる存在となりました。
パフォーマンスそのものが最高のコンテンツとして世界のボクシングファンに認知されたのです。
かつては国内市場を意識した話題性が重視され、現在は世界共通に伝わる競技性が重視されていると言えます。
もちろん亀田興毅氏が話題を作り出せたのは世界を獲れる実力もあったからという前提はあります。
世界との接点:「国内市場重視」vs「グローバル市場志向」

亀田興毅氏は基本的に日本国内で完結するキャリアを歩みました。
世界戦は多く組まれましたが、視聴層は国内の日本人中心。
島国日本の中に限定した話題性で日本国内においては当時誰もが知る存在になりました。
一方の井上尚弥選手は海外のリングにも上がり、WBSSバンタム級トーナメント制覇後はトップランクと契約し、世界市場もターゲットにしたキャリアを歩んでいます。
そして「世界で評価されること」がそのまま日本での影響力にもつながる構造を築いています。
三階級を制覇時点では日本国内での井上尚弥選手の知名度はかつての亀田三兄弟ブームを超えるものではありませんでした。
が、井上尚弥の名前が世界的に評価を上げていくに連れて日本でもその知名度を一気に上げていくことになりました。
井上尚弥選手は圧倒的な実績を引っ提げて世界戦略を取っていきましたが、これからは日本人ボクサーも「いかに早く世界に見つけてもらえるか」が重要になってくるでしょう。
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亀田興毅氏はプロモーターとして国内ファンを意識した空間作りを目指す

マスメディアの力で時の人となった亀田興毅氏は現在プロモーターとして新たなボクシングファンの開拓に腐心しております。
常に何かしらボクシングファン層以外にも届くようなキャッチコピーや企画を用意する亀田興毅氏の姿には現役時代からのブレない芯を感じています。
当時のようなマスメディアの力がないこともあり、亀田興毅氏率いる3150FIGHTはまだまだ大きな話題を作り出せているとはいえません。
2024年には新たにLUSHBOMUという音楽と食と地域性の強いボクシング興行とタッグを組み、新たなボクシングファン層に質の高いボクシングを提供。
今のところは世界戦略よりも国内での新たな観戦スタイルの提供や話題作りに軸をおいた路線を歩む3150×LUSHBOMU。
2025年5月24日(土)には亀田家の最終兵器としてかつて話題を作った亀田和毅選手が三階級目のベルトに挑戦します。

この亀田家の歴史の最終章はあっという間にチケット完売!!
テレビが主流の頃に一時代を築いた亀田家のクライマックスをABEMAで見届けましょう。
国内市場の開拓は日本国内のボクシング熱を維持するためには大事な歩みの一つです。

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井上尚弥に続き日本人ボクサーが世界から発掘される時代に
SNSや配信媒体の発展によって世界から見つけられやすくなった日本人ボクサーですが、井上尚弥選手のモンスター級の活躍によって軽量級も金になるコンテンツとして、そしてその中心的存在として日本人ボクサーに注目が集まっています。

体重差を考慮せず、純粋な実力で最強の選手を評価するランキングであるPFP(パウンドフォーパウンド)に日本人ボクサーが3人(井上尚弥、中谷潤人、寺地拳四朗)もランクされる時代です。
今後はかませ犬扱いではない形で日本人ボクサーがアメリカを中心に海外のリングに上がりファンを喜ばせる存在になっていくはずです。
女子ボクサーの晝田瑞希選手もアメリカのリングに上がっていますが、彼女のパフォーマンスとキャラクターなら向こうで日本にいる以上の人気を手にするでしょう。
海外の目が日本人ボクサーに向く中で、アマチュア9冠の堤麗斗選手はアメリカのボクシング専門誌「ザ・リング」とブランド・アンバサダー契約を締結し、ニューヨークのタイムズスクエアで異例のデビュー戦を行いました。
キャリアの早い段階から海外のリングで結果を残し、その話題性を引っ提げて日本のリングにも上がれば相乗効果で国内外の人気を高めていけるはずです。
海外のリングに上がるのはそれはそれは骨の折れる取り組みにはなりますが、実力のある日本人ボクサー達が井上尚弥選手に続いて世界的な脚光を浴びる時代が間違いなく来ています。
ラスベガスのアンダーカードに登場した鉄の拳、中野幹士選手も海外からも注目される日本人ボクサーの1人となっていくでしょう。
ウェルター級の佐々木尽選手も世界のベルトを獲ればあのファイトスタイルは間違いなく世界から評価されて引っ張りだこの選手になるはず。
まとめ:時代に合わせて変わるボクサーのプロモーション
亀田興毅と井上尚弥、2人の歩みは「どちらが正しいか」ではなく、「時代にどう適応したか」を示す上での良い対比となります。
ボクシングの競技性そのものは変わりませんが、「それを誰にどう見せ、どう伝えるか」の文脈は大きく変化しました。
亀田興毅氏の時代はテレビが主力のメディアだったため、とにかく視聴率を取ることがプロモーションとして重視されていました。
また、世界市場に売り込むパイプもなく、国内で稼げれば良かったので世界戦略なんて考える必要もありませんでした。
井上尚弥選手が活躍する現代はテレビは衰退し、少子高齢化で国内市場は縮小傾向な一方、SNSや配信媒体の普及で「見たい人が見に行く」時代に。
そしてその見たい人が国内を飛び越えて国外まで広がっています。
世界的に成功するには国内の内輪ネタのような話題作りは意味がなく、誰が見ても納得する競技者としてのパフォーマンスと実績が重視されます。
こうした時代による違いがあるからこそ、今、井上尚弥選手が世界中で評価され、かつて亀田興毅氏が日本中の注目を集めたのです。
3150×LUSHBOMUのようなエンタメ性で日本国内において新規のボクシングファンを増やす取り組みと、世界を意識したプロモーション。

この2つが両輪となってボクシング大国日本のボクシングが国内外両方から視線を集める時代がやってこようとしています!!
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