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インフルエンサーが次々誤報・ボクシングXY染色体を持つ女性の五輪参加の論点整理

torajiro

ボクシングファン歴27年。プロボクサー歴3年。ボクシングブロガー歴2年。一人でも多くのプロボクサーの戦った証をネット上の記事として残していきたいと思いブログを開設。Xも投稿していますのでフォローいただけると嬉しいです。

パリ五輪の女子ボクシングが思わぬ形で注目を集めています。

元男性がトランス女性としてリングに上がって女子ボクサーを圧倒している。

アルジェリアのイマネ・ケリフ選手の試合の映像と共にこうした投稿が拡散されています。

しかしこちらは誤った情報。

ちょっと調べてば誤情報だと分かるものを、鵜呑みにしてひろゆき氏らインフルエンサーの方々が次々と拡散。

海外でもイーロン・マスク氏が誤解を招くツイートを拡散させたりと、世界的に見ると日本以上に酷い有様。

何より誹謗中傷は良くないし、これでは論点もズレてしまう。

まずは誤りを正した上でIOCも頭を悩ませているだろう本件について問題点を整理しました。

ひろゆき氏の投稿内容

まずはひろゆき氏の投稿を引用します。

元男性が、女子オリンピックボクシングに参加。

元男性の余裕勝ち。

金玉取った男性は、金玉取った男性です。

女性ではないです。

トランスジェンダーは、トランスジェンダーであって、女性ではない。

女性の大会に元男性を参加させるのは、女性の機会を奪う。

ひろゆき氏のX投稿より

トゲのある書き方ですが前提から間違っていました。

そもそもひろゆき氏が指摘したイマネ・ケリフ選手は元男ではありません。

女性として生まれ、女性として育っています。

その証拠にYouTubeに可愛らしい少女時代の写真も載ったインタビュー動画がアップされています。

出典:Grand Format : Imane Khelif ......Poing levé pour la Médaille Olympique ....

また、元男性の余裕勝ちとありますが、開始46秒で対戦相手が棄権したためであり、一方的な展開になっていたわけではありません。

ジャブ数発と浅くストレートが入ったまで。

この数発で戦意喪失する程の身体能力差があったというよりは、事前情報の数々によって心が折れたようにも見えました。

勿論これは戦った本人でないと分からないことで、試合映像を見ての個人的な感想です。

イマネ・ケリフ選手はトランス女性ではない

元男と批判されているイマネ・ケリフ選手は上述のとおり生まれた時から性別は女性です。

しかし国際ボクシング協会(IBA)が主催する世界選手権にて性別適格性検査の際にXY染色体を持つことが証明されたため、出場不可となった経緯があります。

台湾のリン・ユーチン選手も同じ理由でこの時に出場権を剥奪されました。

この経緯があるため、両選手のパリオリンピック出場には大きな批判が集まりました。

しかしXY染色体とか聞き慣れない言葉は取り除かれ、
体は男、トランスジェンダーだという分かりやすい形に変換されてこの情報は拡散されて行きました。

そして大会が始まり1試合目でイマネ・ケリフ選手の対戦相手は46秒で棄権したことで、男だという誤情報とセットで誹謗中傷の声が世界規模で広がっている状況です。

なお、間違いに気づいたひろゆき氏は以下の訂正投稿をしておりました。

性染色体XYで女性器と睾丸を持つ男性が女子オリンピックに出場。

女性選手に余裕勝ち。

他の女性選手より競争上の優位があることでIBA女子世界ボクシング選手権失格になったのにオリンピックに出場。

「女性の大会に"染色体XYで女性器と金玉がある男性"が参加するのは女性の機会を奪う」に訂正します

ひろゆき氏のX投稿より

XY染色体があったのなら生まれ持った性が女性であれ男だという主張です。

同じく誤った情報を投稿していたボクシング界のインフルエンサー細川バレンタイン氏は以下の訂正投稿を出しました。

俺のこのポストにいくつか?間違いがある事がわかったので、訂正します!

このトランスジェンダーだと書いてしまった選手は、イマネ・ケリフと言う名の選手で女として産まれ女として親にも育てられた方のようです。 (つまり、女性器を持って産まれているのだ!と俺は理解しているのだけど、違ったら教えて欲しい)

ただ、あまりにボクシングで強いから性別検査をしたら、染色体が『XY』だったとの事 一般的に男性の染色体→XY 一般的に女性の染色体→XX です そのため、昨年の世界選手権で性別適格性検査に不合格だったため失格となっていたが、今回のパリオリンピックでは参加が許されている選手のようです。

ちなみにこの映像は、今回のオリンピックのものではないようです。

確認が足りず申し訳ないです。

イマネ・ケリフ選手のオリンピック出場が許されるべきか?はまた別の議論だけど、この選手をトランスジェンダーと言ってしまった事は、失礼な物言いだと思うので訂正します。

本当に失礼しました。

細川バレンタイン氏の投稿

それぞれの個性が出た文章ですが、僕は言いたいことはハッキリ言うし、間違いがあったらすぐに認める細川バレンタイン氏が好きです。

問題の論点を整理

誤情報が次々と拡散され続け、中には下半身の画像を切り抜いて男性器があるだの対戦相手の胸を触っていただのといった投稿も拡散されています。

世界規模での個人攻撃、いじめは絶対に容認することは出来ません。

その上で今回の件に関しての論点を整理します。

私は以下の点について更なる検証が必要であると考えます。

  • トランスジェンダー選手の女性としての参加の是非
  • IBAの検査の妥当性
  • IOCの判断基準
  • XY染色体を持つ女性の身体能力は男性並なのか

トランスジェンダー選手の女性としての参加の是非

今回の2選手とは違うケースですが、こうした熱が沸き起こるそもそもの原因はトランスジェンダー選手の五輪参加でしょう。

生まれ持った体が完全に男性でそこから女性になった方の女性としての競技参加は認められて良いのでしょうか。

生まれ持った体の違いによる身体能力差は学校での体力測定値の違いからも明らかではあります。

男性から性適合手術を受けて女性になると、体は女性化し、身体能力は男性だった時よりは落ちます。

ただ、元が男性だっただけあり、生まれつきの女性よりは身体能力は高いと考えられます。

逆に女性から男性になってボクシングのリングに上がった事例がありますが、元世界チャンピオンでも男子としては4回戦レベルでした(挑戦は激アツ!格好良かった)。

女性から男性になって挑戦した結果、世界チャンピオンが4回戦レベル。
これだけの差があると言うことはその逆もまた然りとは考えられます。

IBAの検査の妥当性

世界選手権の際にIBAが行った検査内容については公にはなっておりません。

IBAはボクシングファンの間では知られていることですが、数々の問題を抱える組織です。

  • 審判の不正疑惑
  • 不透明な財政管理
  • 数々の組織運営の問題

これらを理由にIOCはIBAの国際競技団体としての承認を取り消しています。

そういう団体が実施した不透明な検査であるという点は頭に置いておいた方が良いでしょう。

イマネ・ケリフ選手もリン・ユーチン選手もそれまで長きに渡り女子ボクサーとして勝ったり負けたりしながら競技を続けてきた方々。

それが突然世界選手権で行われた検査において引っかかり今回の事態に。

リン・ユーチン選手については母国における検査では問題なかったという記事も目にしました。

IBAの検査の妥当性については検証すべき点でしょう。

なので僕はひろゆき氏のような男と決めつけた発言は出来ません。

IOCの判断基準

IOCがどういった基準で2選手の参加を認めたのかも気になるところです。

左翼がどうのとか、多様性、寛容性といった理由で参加を認めたのではという声をたくさん目にしました。

しっかりと客観的根拠に基づき慎重に競技を重ねた結果だとは思うのですが、判断基準が分からない以上は何とも言えません。

XY染色体を持つ女性の身体能力は男性並なのか

個人的にはここが一番気になる点です。

両選手とも、生まれた時から女性として生きてきたのです。

ということは外見的には女性なのだと思います。

イマネ・ケリフ選手のインタビュー動画を視聴しましたが、声も女性で綺麗な方でした。

確かに体はがっしりしていますが、同じ体重の男性と並べばやはり女性です。

体は女性でXY染色体を持つという場合に、一般的な女性とどれほど身体能力の差が生まれるのだろうという疑問があります。

イマネ・ケリフ選手もリン・ユーチン選手も10代からボクシングを初めて10年以上の長いキャリアを持つボクサーです。

それだけの期間ボクシングをやってきても東京オリンピックでメダルは取れていません。

RSC(プロボクシングで言うところのTKO)による勝利も少ないです。

Boxrecより
Boxrecより

リン・ユーチン選手に関して言えば体格の優位性を活かしてゴリゴリというタイプの選手でもありません。

完全な男性の体で10代からボクシングの練習に励んだ選手が女子のリングに上がればもっと圧倒的な差を見せて勝ちまくるはずです。

男性のような身体能力は持っていないことは明らか。

熊と人間を戦わせるだの命の危険がといった批判は極端過ぎます。

あとはどれだけ一般的な女性と女性の体に生まれてXY染色体を持つ女性との間に身体能力的な差があるのか。

この点に関する更なる検証が必要になってくるでしょう。

まとめ

イマネ・ケリフ選手、リン・ユーチン選手に対しては、特にイマネ・ケリフ選手に対しては元男性といった誤った情報と共に個人攻撃の誹謗中傷が溢れかえっています。

誤りはすぐに調べれば分かることです。

加えてIBAの検査の妥当性等、不明なことばかりです。

にも関わらず決めつけた個人攻撃の多さには愕然とします。

今大会に関してはIOCが出場を認めた以上は個人を攻撃するべきではありません。

不確かな情報をもとに男性器があるだの決めつけて投稿することは控えるべき。

両選手ともに女性として生きて、頂点目指して10数年の努力を重ねてきたボクサーであり、その過程では何度も敗北を経験してきました。

パリ五輪も東京五輪の雪辱を目指してリングに上がっているはずです。

ここまで報道が加熱した中で戦う対戦相手の心情等、難しい問題ではありますが、個人攻撃をする前に一歩踏みとどまって論点を整理し、情報を調べながら自分の頭で考えるステップが必要だと思います。

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