こんにちはTorajiroです。
新年早々、嬉しくも複雑なプロレスラー柴田勝頼選手の急性硬膜下血腫からの復帰戦が行われました。
急性硬膜下血腫は発症した場合の死亡率は50%と高く、更に開頭手術した場合の死亡率は65%に上がる生死にかかわる頭部外傷です。
この大きな怪我から復帰した柴田勝頼選手が試合後に同じく急性硬膜下血腫から復帰を予定しているプロボクサー山中竜也選手から勇気をもらったと言及していました。
気になったのでそれぞれの病状の違いや復帰に向けて用意されたハードル、再発のリスクについて調べてみました。
柴田勝頼選手と山中竜也選手の病状の違い
プロレスラーの柴田勝頼選手が復帰の際のコメントで言及していましたが、近々元世界チャンピオンのプロボクサー山中竜也選手が急性硬膜下血腫を乗り越えて復帰する予定です。
プロレスであればやりようによっては頭部の打撃は避けられますが、頭部への打撃をメインとするボクシングで急性硬膜下血腫から再起するのは正気の沙汰ではありません。
一方で、柴田選手と山中選手で異なる点も一つあります。
それは開頭手術をしたか否か。
柴田選手は2017年4月9日の両国大会で行われたIWGPヘビー級王座戦でのオカダ・カズチカ戦後、急性硬膜下血腫で開頭手術をしています。
死亡率65%。
半分以上の確率で死ぬような状況を乗り越えて今があります。
一方の山中竜也選手もビック・サルダール選手との世界戦に敗れた後、頭痛を訴え搬送され、急性硬膜下血腫と診断されていますが手術はしていません。
出血が止まった事で手術を回避出来た山中選手の方が、同じ急性硬膜下血腫でも症状は軽かったと言えます。
柴田勝頼選手の復帰までのハードル
柴田勝頼選手は復帰するまでに4年の歳月がかかりました。
開頭手術をしただけにまともに動けるようになるのにも時間がかかり、そこからまた体を作っていくまでにも相当な時間をかける必要があったでしょう。
怪我の予後を時間をかけてみていく必要もあったでしょうし。
復帰戦は事前に発表されていたルールでは、キャッチレスリングルールという方式が採用されていました。
聞いたことのないルールだったので調べてみたところ、どうやら打撃は禁止らしい。
マットに叩きつけられたりする衝撃の心配はあるけれど、頭部への打撃がなければまだ安心。
それだけ復帰に向けて新日本プロレスも念には念をの対応をしていたのでしょう。
と思っていたらなんと柴田選手、対戦相手の愛弟子成田蓮選手に試合直前にルール変更を呼びかけ、プロレスルールで試合をする事に。
試合後の会見で「会社との約束をはみ出した、ペナルティも受け止める」と発言していたので、台本通りではなく、ガチだったようです。
会社としては事故が怖いけど、会場は盛り上がるし、心境は複雑だったことと察します。
怪我の内容が命に関わるものなだけに気が気ではなかったでしょうが。
JBCのルール改訂により山中竜也選手は復帰可能に
Torajiroは元プロボクサーで、身の回りでも練習中に急性硬膜下血腫で搬送されて手術する選手を過去に何人かみてきています。
手術もして生死を彷徨ったケースもあれば、出血は見られたけど手術せずに済み、そのままの人もいました。
ただ、どちらのケースも当然の如く選手は引退していました。
死ぬかもしれない経験をした上で、それでもそこに戻りたい思う人は激レアさんでしょう。
練習中の急性硬膜下血腫で引退した選手の中には、やはりどうしてもボクシングを続けたいとジムに相談に来る選手もいましたが、ジム側が厳しく接し、思い止まらせていました。
試合で発生した怪我ではないのでジム側が黙っていれば復帰も出来たかもしれませんが、命に関わる問題をジム側がスルーはしませんでした。
急性硬膜下血腫になった選手の場合、これまでのJBCの規程では例外なくライセンスを剥奪され、選手を継続することは出来ませんでしたが、2021年12月9日にルール改訂があり、厳しい条件をクリアすれば復帰する事が可能になりました。
おそらく山中選手及び所属する真正ジムが復帰に向けてJBCにルール改訂に向けた働きかけをし続けた結果でしょう。
山中竜也選手が復帰するための条件
JBCが新たに設けた規程では、急性硬膜下血腫から復帰する場合にはかなり厳しい条件が課されています。
詳細が触れられる事は少ないのでここで細かな条件について紹介します。
一、ライセンス再発行の申請要件
引用元:https://www.jbc.or.jp/web/kokuji/k20211209.pdf
JBCルール第 27 条(硬膜下血腫等)に基づきライセンスが失効となったボクサーは、下記の要項を満たした場合に限り、ライセンスの再発行を申請することができる。
1.受傷後手術なく経過し後遺症もないこと
2.受傷後 1 年以上経過していること
3.受傷後 1 年以上経過した段階でそれまでの画像と臨床経過をJBCに提出し、それを基にJBC健康管理委員会にて審議し現役復帰に支障が無いと認められること(具体的基準として画像上新たな出血がなく、周囲の組織との癒着による脳の偏位等が認められないこと)
4.ライセンス再発行の申請をしたボクサー、その家族および関係者は、現役復帰による公式試合やスパーリングにより頭蓋内出血が再発し、重度の後遺症もしくは死亡の可能性があることを十分理解し、承諾すること(なお危険性などに関しては、コミッションドクター等から話を聞くこともできる)
5.現役復帰に関しては、最終的に自己の判断において行うものであり、その旨の承諾書に本人、家族、関係者が署名すること
6.現役復帰するボクサーは、試合 1 週間前、及び試合後 1 週間以内に頭部MRI検査(FLAIR、T2 star)を行いJBCに提出すること
7.復帰後再度頭蓋内出血が認められた場合は、ライセンスは自動的に失効し、以降復帰に関する再申請はできない
とまあこんな具合に細かな条件が定められています。「死亡の可能性があることを十分理解し、承諾すること」当然なんですけどこうやって文章ではっきり書かれるとビビりますね。
試合前も試合後もMRI検査を受けないといけないし、他にも最終試合時点でランキングに入っていないといけないという条件や、復帰戦のラウンド数もJBCに指定されます。
急性硬膜下血腫の再発リスクについて
急性硬膜下血腫については後遺症についてはたくさん情報がありますが、再発リスクについて触れられる事は殆どありません。
競技を引退して日常生活を送る上では再発のリスクを心配する必要は無さそうですが、格闘家として復帰するとなるとJBCも細かな規程を設けるように、リスクは高いと考えられます。
更に急性硬膜下血腫から復帰するという前例がほぼないので、リスクを見極めようにも判断材料が非常に少なく、不安は絶えません。
考えたくはありませんが、柴田選手、山中選手のどちらかが急性硬膜下血腫を再発させてしまった場合には、プロレスもボクシングも二度と復帰の道は用意しないでしょう。
まとめ
プロレスラー柴田勝頼選手の復帰も、プロボクサー山中竜也選手の復帰も、どちらも前例が殆どなく、リスクを判断することが難しい上に、本人達は「死んでも良い」という覚悟を持った選手達です。
本人達のやりたい気持ちは尊重したいですが、安全面については慎重に慎重に段階を踏みながら周囲の人達が見極めていって欲しいと願います。
柴田選手がキャッチレスリングルールという条件を反故にしてプロレスルールで試合をしたのも、ファンとしては嬉しい限りですが、運営側としては止めさせるべきだったんじゃないかという複雑な気持ちもあり、難しい問題だなと考えさせられました。